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  • 公開日: 2022/3/10

看護師を悩ます職場のパワハラ問題。定義や事例に解決方法を解説

看護師はさまざまな年齢や職種の医療従事者や患者さんとかかわりながら日々働いています。注意を受けたり、指導されたりという日常のなにげない一コマも過剰なものであれば「パワハラ」の可能性もあります。今回は看護師の職場でおこりうるパワハラの種類について、事例を交えわかりやすく解説していきます。

看護師のパワハラ問題。その定義と様々な種類を解説

看護師はさまざまな年齢や職種の医療従事者と働いています。看護を提供する対象者も、年齢・性別・職業はそれぞれ異なっています。

日常の一コマで注意を受けたり、指導されたりすることもあるでしょう。日常的によくある言動が、実は「パワハラだった」という事例も少なくありません。さらに自覚がないまま、

パワハラの加害者になっている可能性もあります。

日本看護協会が2017年に行った看護職員実態調査によると、看護職の約53%が過去1年間に何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験があると回答しています。

正しい知識がないと、何がパワハラなのか判断できず、そのままにしてしまう看護師もいるかもしれません。実際、病院職員・医療者であるがゆえに、我慢してしまう状況があります。けれども、適切な予防・対応策を学習すれば、パワハラを最小化できる可能性があります。パワハラの定義と種類をしっかり理解し、自分を守れるようにしましょう。

パワハラの定義

パワハラは「パワーハラスメント(power harassment)」という英語を省略した言葉です。

一般的には「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為、または職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

パワハラの種類

パワハラと一言でいっても、身体的・精神的なものと種類は多様です。パワハラは主に以下の6種類に分類されます。

身体的な攻撃 殴る、蹴る、物をぶつける
精神的な攻撃 人格を否定する言動、必要以上に長時間・繰り返し叱る
人間関係からの切り離し 無視や隔離をおこない、職場で孤立させる
過大な要求 対応不可能な業務を押し付ける、不要な業務を与える
過小な要求 仕事を与えない、能力とかけ離れた程度の低い仕事を与える
個の侵害 個人のプライベートに過度に立ち入る、勝手に携帯やメールを見る

看護師の「辛い」「辞めたい…」はパワハラが原因? 医療現場の現状

医療現場ではパワハラが多い

日本労働組合総連合会の調査によると、職場でハラスメントをうけたことがある人は32.4%にのぼっています。しかし日本看護協会の調査では、一般の人の1.4倍にあたる53%の看護師が過去1年間に何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験があると回答しています。

一般的な仕事よりも、看護師はパワハラに遭遇しやすいと言えるでしょう。

アンケートで見る看護師が遭遇するパワハラの現状

ここからは、ナース専科で実施したパワハラに関するアンケートを見ていきましょう。実際の現場ではどのような状況なのでしょうか。

Q:職場でパワハラ被害にあったことがありますか?

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:304)

アンケート結果からは、パワハラについて「頻繁に被害にあう」「時々被害にあう」を合わせると47%、「あまり被害にあわない」も含めると約75%にのぼります。何かしらのパワハラがかなりの割合で起きていることがわかります。

パワハラ問題の対象者や被害内容

Q:職場でパワハラをしてくる対象者を教えてください。(複数回答可)

1位/上司(33.33%)
2位/医師(26.02%)
3位/患者(14.36%)
4位/同僚(13.28%)
5位/患者家族(9.76%)

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:228)

パワハラをしてくる対象者として、1位の上司と2位の医師で60%を占めていることからもわかるように、職場で自分より上の立場からパワハラを受けることが多い環境であることがわかります。一方で、ケアの対象である患者と患者家族からのパワハラがあると答えた割合も合計23%を越えており、少なくない被害が生じていることがわかります。

Q:どのようなパワハラをうけたか該当するものを選んでください。(複数回答可)

1位/人格否定や脅迫、暴言などの精神的な攻撃をうけた(35.81%)
2位/過剰なノルマや作業量を押し付けられる(14.33%)
3位/無視や孤立させられる、伝達事項が回されないなど仲間外れにされる(13.50%)
4位/その他(12.12%)
5位/プライベートなことに干渉される(9.37%)
6位/仕事を回されない、業務に関係ない雑用をさせられる(9.09%)
7位/暴力行為があった(5.79%)

ナース専科調べ(2021年12月29日/有効回答数:228)

パワハラの事例

パワハラの具体的な事例として以下のような回答がありました。

  • 無視される。指示や確認を聞いてもらえない
  • 人格否定、心ない言葉をかけられる
  • SNSで悪口を流される
  • 業務量の不公平な割り振り(業務を割り振ってもらえない、過剰な業務量を押し付けられる)
  • 患者さんからの暴力・暴言

医療現場でパワハラは起きやすい?

医療現場のパワハラは一般的な職場と比較しても起きやすい状況にあるのは前述した通りです。ではなぜそのような状況になるのか解説して行きます。

医療現場で遭遇する7種類のハラスメント

医療現場では上司や同僚といった医療従事者だけでなく、患者や家族などさまざまな対象からパワハラを受ける可能性があります。

日本看護協会はハラスメントの被害を、先ほどの6種類のハラスメントに加え、「意に反する性的な言動」を加え相手ごとに分類して報告しています。

調査結果によると「精神的な攻撃」は、同じ勤務先の職員からが 53.7%で最も多く、次いで患者からが39.5%です。「身体的な攻撃」は患者からダントツで多く、92.1%です。

さらに「性的な言動」や「身体的な攻撃」のように患者や家族から多いハラスメントは、同じ勤務先の職員からは少ない傾向があります。反対に「人間関係の切り離し」「過大・過少な要求」「個の侵害」といった同じ勤務先の職員から多いハラスメントは、患者や家族からは少なくなる傾向が見られます。

患者 患者の家族等 同じ勤務先の職員
意に反する性的な言動 71.0% 6.4% 26.8%
身体的な攻撃 92.1% 4.9% 3.3%
精神的な攻撃 39.5 20.4% 53.7%
人間関係からの切り離し 6.3% 2.8% 85.4%
過大な要求 13.4% 11.5% 72.6%
過小な要求 9.2% 4.% 73.0%
個の侵害 6.9.0% 3.8% 85.4%

引用:1年間に受けた暴力・ハラスメントの相手(日本看護協会)

医療現場のハラスメントの背景にあるもの

日本看護協会は医療現場でのハラスメントの背景にあるものとして、以下の5つをあげています。

  1. 職種間のヒエラルキー構造
  2. 緊急性・切迫性の高い場面
  3. 期待や要求水準が高く、厳しい見方をされがち
  4. 性的な言動が許容される場・関係であると都合よく解釈される
  5. 患者の言動に受容的な態度で接する

引用:医療現場におけるさまざまなハラスメント(日本看護協会)

看護師は医師の指示を受けて業務をおこないます。法的に位置づけられた上下関係が、そのままの関係性としてヒエラルキー構造を生み、パワハラが起こりやすい土壌が生まれている可能性があります。

先輩看護師や同僚との関係では、プリセプターシップやチーム医療をおこなう看護場面で、指導が過剰になりパワハラとなるケースもあります。

さらに、患者の生命に直結するような急変・緊急時に、医師や同僚から否定的な言動を受けることもあるかもしれません。こうした場合、「患者の生命を守るという業務上仕方がなかった」とパワハラ発言であると認識されにくいこともあります。

そのほかに、医療・看護の受け手である患者・患者家族の高い期待値や要求水準が、医療者への過大な要求・クレームに繋がることがあります。ある一定レベルまでは許容できるかもしれませんが、過大になればパワハラともなります。

さらに、看護は身体的接触をともなう場面も多く、患者側が性的な言動が許容される場・関係であると都合よく解釈されるケースもあります。

看護師の身の回りには、パワハラになりうる場面があとを絶たないのです。

立場によって変わるパワハラ

看護師の業務では、日常的に指示や指導を行います。業務上の必要な指示・注意・指導であればパワハラにはあたりません。しかし、立場の優位性や職場での地位を拡大解釈し、業務の適切範囲を超えた言動には注意が必要です。

ここでは、医師・看護師・患者の3つにわけて、パワハラ事例を紹介します。

医師・看護師・患者からのパワハラ事例

医師から受けることが多いパワハラ例
  • 同僚の目の前で叱責・指導する
  • 無視する
  • 適切な方法で指導・指示を行わない
看護師から受けることが多いパワハラ例
  • 無視する
  • 必要以上に長時間にわたり、繰り返し指導する
  • 適切な指導を行わず、仕事ができていないと不当な評価をする
  • 個人の能力を超えた仕事を配分する、配分された仕事が適切に行えないと叱責する
  • 個人の能力を過小評価し仕事を任せない(リーダー業務や夜勤をさせないなど)
  • 家族構成や交際相手、病気といったプライバシーを執拗に詮索する
  • 本人や家族・関係者の、不名誉・不利益な噂や悪口を故意に流す
  • 意図的に飲み会に誘わない
患者・患者の家族から受けることが多いパワハラ例
  • 叩く・殴る・蹴るなどの暴力行為
  • 物を投げられる
  • 個室やカーテンで囲われた場所で、過剰なケアやサービスを強要する
  • 特定の事象に対し、過剰に叱責したり、責任を追及したりする
  • 個人にとっての不名誉・不利益な噂を流す

厚生労働省はパワーハラスメントを受けた際の考え方を例示して解説しています。

パワハラは看護師の就業継続を困難にして人間関係にも影響する

パワハラは職場の人間関係にも影響を与えます。とくに、ハラスメントを受けている看護職の離職率にも影響を与えます。具体的な割合は、以下です。

パワハラに関する看護師の就業継続・離職意向

暴力・ハラスメント(患者・患者の家族等)の有無別の就業継続意向

離職を考えていない 離職を考えている
パワハラあり 47.7% 52.3%
パワハラなし 58.0% 41.7%

暴力・ハラスメント(職員間)の有無別の就業継続意向

離職を考えていない 離職を考えている
パワハラあり 39.4% 60.4%
パワハラなし 60.5% 39.3%

引用:2019年 病院および有床診療所における看護実態調査 報告書(日本看護協会)

患者・患者の家族等からよりも、職員間で暴力・ハラスメントを受けている人の方が、離職率が高くなっています。

職員間で起こりうるパワハラの特徴は「人間関係の切り離し」「過大・過少な要求」「個の侵害」です。パワハラが常態化している職場では、以下のような職場環境に陥りやすくなります。

  • 自分の能力を発揮できない
  • 職員同士が信頼し協力し合って働くことができない
  • 人員的な余裕がない
  • 人間関係が良くない

働くうえで人間関係や働きやすさを重視したい人も多いなか、パワハラが常態化している職場では、新しく人を採用しても長続きしないことも多く、パワハラがおきやすい状況が改善されにくくなってしまうのです。

時には訴えることも重要。パワハラの対処方法

パワハラの言動を受けた・目撃した場合の、適切な対処方法を知らない看護師もいるかもしれません。

パワハラの当事者に直接パワハラを辞めるように伝えるのは、決しておすすめできる方法ではありません。意図的にパワハラをおこなっている場合には、さらに酷くなるリスクがあるからです。

パワハラを受けたり、目撃したりするのは、決して気持ちのいいものではありません。看護師としてだけでなく自分自身を否定されたような気持ちになり「つらい」「辞めたい」と思ってしまう人もいるかもしれません。どうにもならなくなってしまう前に、対処方法や相談窓口を把握しておきましょう。

上司に伝える

相談先の窓口として一番考えられるのは「上司」です。主任や看護師長、規模の小さい医療機関は事務長や院長に相談しましょう。

院内の相談窓口を活用する

多くの病院には、パワハラの相談窓口を設置し対策を講じています。日本看護協会の調査によるとパワハラ対策を講じているのは病院・診療所の70%、有床診療所・施設では20~40%程度と、医療機関によって差があります。勤務先によっては相談窓口や具体的な対応策がない場合もあるため注意が必要です。

労働基準監督署や外部機関を活用する

上司に伝えにくい、院内の相談窓口に相談できない場合には、外部機関を活用するのも1つの方法です。

パワハラを相談できる外部機関としては、以下があります。

厚生労働省の相談窓口は無料で、電話・メールで気軽に相談できます。プライバシーにも十分配慮されています。困っているときにはぜひ相談してみてください。

「パワハラかな?」と思ったら一人で溜め込まず相談しよう

看護師として働いていると、パワハラの被害者にも加害者にもなる可能性があります。もしも「パワハラかな?」と思うことがあれば、一人で溜め込まないようにしましょう。

パワハラが原因で、看護の仕事が嫌になってしまう、心の病気になってしまうことは避けなければなりません。

このようなつらい経験をしないためにも、どのような行為がパワハラかを理解し、院内や外部に相談できる場所を把握しておきましょう。

引用・参考

1)2017年 看護職員実態調査 日本看護協会調査研究報告<No92> 2018(日本看護協会)
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/92.pdf
2)仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021(日本労働組合総連合会)
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20210625.pdf?23
3)2019年 病院および有床診療所における看護実態調査 報告書
https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/file_download.php?id=6373
4)1年間に受けた暴力・ハラスメントの相手(日本看護協会)
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2020/efficiency_report2019.pdf
5)医療現場におけるさまざまなハラスメント(日本看護協会)
https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/safety/harassment/index.html

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